前回のバスルームの未来について
もう少し、考えてみましょう。
もしも、あなたが旅先の宿で
理想の浴室に出会ったとすれば、
それは、どんなバスルームでしょうか?
私なら、「くつろぎ」と「癒し」があるバスルームです。
せわしい日常から離れて羽を休め、
心地よい眠りの時間へと続く、
自分と向き合う濃密な体験であってほしいと思います。
例えば、天草にある「五足のくつ」のヴィラ。
小高い丘から八代湾を望みながら遠い潮騒を聴き、
源泉かけ流しの露天の岩風呂に身を委ねて、
ブルガリのアメニティのすがすがしい香りを感じつつ、
満点の星空の中をつたう、降り注ぐ流れ星を眺める深夜の瞬間。
そんな体験を得るためには、デジタルの導入は
最低限で良いのかもしれません。
例えば照明なら、LEDでなくても、
暗い室内の一角にアロマキャンドルを灯すほうが
心が休まります。
また、マッサージやハンドマニキュアを愉しむなら、
寝室から少し小径を歩いたスパにある
眺めの良いエステルームで、ベテランの技によるセラピーを
受けてみたいと思います。
一方、
「旅先のバスルームでは素敵な体験を求めても、
自宅のバスルームは、アクティブな自分を後押しする場にしたい」
という方もいるかも知れません。
人の心は、きまぐれです。
バスルームの空間で
リラックスしたいかと思えば、
リフレッシュしたいと思い、
時には自分を奮い立たせたくなるのです。
自宅のバスルームに求めたい機能は、
日によってさまざまです。
だからといって、イアン=ピアソン博士が提案するような、
ハイテクを駆使しあらゆる「便利」が盛り込まれたバスルームは、
あまり素敵ではありません。
理想のバスルームを考えるにあたっては、
空間のコンセプト、すなわち、
体験をデザインすることが大事になってくると思います。
言い換えると、ぶれない軸を持って、
「なにかを捨てる」ことと言えます。