友人が教えてくれる「本当に買いたくなるもの」

前職時代からお付き合いをさせて頂いている、
いまは遠く海外に住む友人と、久々に再会が叶いました。

オルズグルさん(オルズさん)です。
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サンクトペテルブルグからの、一時帰国の忙しい日程を縫って、
わざわざ大阪まで会いに来てくださいました。

感動です・・・

とてもまっすぐで、努力家で、温かくて、聡明で、芯の強い人。
会うたびに、前に進む勇気をくれる人です。

オルズさんは、数年間にわたって
渾身の努力で築き上げたある事業を、
諸般の事情からこのたびリセットする、
という重い決断をされた後でした。

私は、彼女が手掛けるビジネスは、
どんなものでも応援したいと思っています。

オルズさんが販売する商品・サービスがあれば、
どんなものでも入手したいと思っています。

なぜなら、彼女の生き方そのものに、
ストーリーがあるからです。
オルズさんのこれまでの人生は、
ハリウッド映画にもなりそうなほど濃密なのです。

だから、彼女が手掛けるどんなビジネスも商品・サービスも、
彼女のストーリーを反映したものになる・・・と思えるのです。

これって、最強のマーケティングだと思いませんか。

人が本当に買いたくなるものとは、
「モノ」の背景にある、心を動かされる「コト」なのです。

ユニバーサルデザインとインクルーシブデザイン②

4月7日の記事「ユニバーサルデザインとインクルーシブデザイン①」の続きです。

メイス氏が1985年に提唱したユニバーサルデザイン(UD)には、
次の7つの原則があります。

1. Equitable use
[誰にでも公平に利用できる]

2. Flexibility in use
[使う上で柔軟性に富む]

3. Simple and intuitive
[簡単で直感的に利用できる]

4. Perceptible information
[必要な情報が簡単に理解できる]

5. Tolerance for error
[単純なミスが危険につながらない]

6. Low physical effort
[身体的な負担が少ない]

7. Size and space for approach and use
[接近して使える寸法や空間になっている]

これらの原則をふまえれば、
どのような人にとっても使いやすいデザインを
作ることができるようになりました。

UDの考え方が世に出て30年を経た今、
UD対応のモノは人々の暮らしに定着し、
世の中は随分と便利になりました。

それでも、UDが普及した結果、人々の間に、
「すべての人が心地よく過ごせるように」
という思いやりの気持ちが育ったのかといえば、
残念ながらノーと言わざるを得ないのが、
現在の世界です。

使い手は当たり前の権利、当然の権利として
UDを「消費」しています。
それは誰も、とがめることができません。

しかし、より便利な暮らしが過大に解釈されて、
自分が過ごしやすければそれで良い・・・
という空気を招いている気がしてならないのです。

混み合った場所で、
すれ違う人などいないかのように
手元のスマホにくぎづけになって歩く人たち。

道路や公衆トイレの床などに
ごみや汚れを落としたまま、
立ち去っていく人たち。

一時停止するべき停止線を越えて、
歩行者が渡りかけている信号のない小さな横断歩道に
アクセルを踏み込んでくるドライバーたち。

・・・

そんな悲しい光景を、毎日いやというほど
見かけます。

昔は地域や親族の目を気にして
恥をかかないように…と行動を律していた日本人が、
今、目の前の他人を大切にできなくなっています。

デザインは、ただ人を便利に快適にするだけでは
いけなかったのです。

究極の家電とは

世の中に「究極の家電」といわれるものが登場したとします。

それは、どんなものだと思うでしょうか?

例えば、誰もがその登場に驚き、

入手しにくい価格だけど、

店頭に並んででも買いに行く。

そして、一時的なヒットに終わらず、

長い歳月を経ても愛され続ける商品。

そんな商品を開発して世の中に出すことができたら、

すばらしいことですね。

だって、今はどんなワクワクする商品であっても、

すぐに飽きられて色褪せていく時代ですから・・・

着想のヒントは、「自分が楽しくなる」商品というよりも、

「自分の大切な誰かを喜ばせる」商品にあるのかも知れません。

あたらしいものづくりのかたちを探って

昨日は、エンジニアと識者の方々が集まる、

月に一度の勉強会に事務局として参加させて頂きました。

会では、それぞれ異なった分野の高度な技術と知見を持つ方々が、

家電やビジネス向け電化製品の新商品を考え、

技術アイデアの交流を楽しんでいます。

この場から、世の中の役に立つ新商品が誕生する日を夢見て、

また、集まってくださったエンジニアの方々が

達成感と喜びを味わってくださることができるよう、

これからも、あらゆる方策を尽くしていきたく思います。

ユニバーサルデザインとインクルーシブデザイン①

いまや馴染み深くなったモノの中には、
障がい者にも利用しやすく、
設計に配慮した製品が多数あります。

電動ハブラシ
温水洗浄便座
ドアのレバーハンドル
ステップバス
・・・

他にも、
ウェブサイトに配置された「文字サイズを変えられるボタン」
一目で操作がわかるアイコン
多言語翻訳システム
音声入力システム
・・・など、いろんなところで配慮を見かけます。

ユニバーサルデザインの考え方で生み出されたこのような工夫は、
私たちの暮らしを心地よく便利にしてくれています。

「すべての人にとって使いやすいデザイン」
を追求するユニバーサルデザイン。
1985年にアメリカで、この考え方が提唱されました。

建築家、デザイナー、そして教育者だったロナルド・メイス氏は、
足に重度の障がいがあり、車椅子で生活をしていました。

彼は、そんな自らの体験を通じて、
「一般の人と同じことをするのに特別な扱いをされたり、
気を遣ったりしなければならないのはおかしい」
と疑問を感じます。
そして、すべての人にとってアクセスしやすい
居住空間の研究を続けました。

70年代からの公民権運動の広がりを受けて、
80年代半ばのアメリカでは、
障害を持つ人の権利運動が盛んになりました。

当時のアメリカには、800万人を超えるともいわれている
ベトナム戦争の負傷兵が帰還していました。

また、自動車が普及した頃でもあり、
交通事故で負傷して障がいを負った人々が
アメリカ国内に多くいたことでしょう。

人権運動の高まりが
ユニバーサルデザインという考え方を後押しする中、
メイス氏は建築基準の改定などに力を注ぎ、
1998年にこの世を去ります。

彼は亡くなる10日前に、
ユニバーサルデザインの国際カンファレンスに登壇し、
講演をしたそうです。

その中で、障害物を排除する「バリアフリー」の考え方と、
マーケット主導型で、万人が利用しやすい設計をする
「ユニバーサルデザイン」とは、異なるものなのだ、
と会場に集まった人々に語りかけました。

障がいを持っている人を特別視せず、
万人にとって良いデザインを。

彼の志は、私たちがものづくりを考えるときに
「人の尊厳」に心を傾けるようにと、
語りかけてくるのです。

「開発秘話」が人を虜にする理由

以前、「プロジェクトX」という番組がありました。

今、改めて放送一覧を観てみると、
「もう一度観てみたい」というものが多くあります。

番組では、「トントン拍子で世の中に出したら大ヒットした」、
という商品・サービスは、とりあげられなかったように思います(笑) 。

そうではなく、ものすごい逆境を乗り越えて作られた
商品やサービスが、紹介されています。

社内の圧力があったり、
使命のためにチームが全力を尽くしたり、
技術的に大きな壁が立ちはだかっていたり、
経営が危機に瀕していたり・・・

あるいは、
「商品開発のきっかけになった、心を揺さぶる体験」
があったりします。

そんなエピソードを聞くのは興味をそそるものです。
夢中になって、話を聞いてしまいます。

商品・サービスの機能や価格といった情報は、
大脳新皮質で処理されます。
一方、「開発秘話」のようなエモーショナルな情報は、
感情を司る古い脳に伝わっていきます。

感情のレベルで受け止めてもらった商品やサービスは、
「情」が移るため、もはやコモディティとはなりません。
だから、価格競争の渦中から距離を置くことができるのです。
また、単なる業者扱いをされることもありません。

ですから、機能面で差別化しにくい商品・サービスこそ、
ストーリーが大切だと私は思っています。

「ものづくり」の重さ

今、クロノグラフの腕時計が、目の前にあるとします。

これを密封容器に入れて、超精密天秤で重さを量ります。

次に、クロノグラフの時計を分解して、
「部品の集まり」にしてから密封容器に詰め、重さを量ってみます。

そして、前後の重さを比較した時、

「部品の集まりのほうが、腕時計よりも1万分の1ほど、
軽くなっていた」

というと、皆さん にわかには信じられないのではないでしょうか。

従来の科学では、説明のつかない現象です。

川田研究所の会長、川田薫博士は、生命の起源を探究する中で、
「生命」の重さを量る実験を繰り返しました。

博士は、ラットに麻酔を打ち、密閉容器に入れて、
生きている時と死んだ後の重さを、超精密天秤で計測しました。

度重なる実験で判明したことは、
ラットが死んでしまった後に、
生きていた時よりも体重のおよそ1万分の1が減っていた、
ということでした。

この「差分」は、生体を維持していた生命エネルギーであり、
「生命体とは、生体と生命エネルギーから成り立っている」
ことを博士は導きました。

博士はさらに、生物以外の存在物にも踏み込んで研究を進めます。

人間が作り出した人工物に着目し、重さを量った後、
その「モノ」を部品に分解して、それぞれの重さを量り、
合計を求めました。

強力接着剤や男性用化粧品、玩具の発電機など、
身の回りの様々な商品で実験したそうです。

そして、前後の重量を比較した結果、
製品のほうが、バラバラの部品の集まりよりも
ほぼ1万分の1の重さを増していたそうです。

博士はこの差分を、
「機能エネルギー(人間の意識)」と名付けました。

「この道具を作ったら、人の暮らしが便利になるだろう。」

「困っている人の役に立つだろう。」

そんな、作り手の「想い」が、
部品とは全く違った機能エネルギーとなって、
製品に籠(こも)るそうです。

そして、作り手の「想い」が加わった製品は、
部品の集積品とは次元の異なる存在になるといいます。

・・・そういえば、
「人が住む家は、空き家よりも傷みにくい」
といわれます。

住む人が家のメンテナンスをするから、
という理由もあるでしょうけれど、
それだけではないようです。

さらに博士は、大量生産をによる商品と、
作り手が気を遣って生産したモノの「差分の重さ」には
明らかな開きがあったといいます。

つくり手の「想い」のエネルギーは重力となって、
確かに製品の中におさまっているのです。

家電とはなにか

The Toaster」で焼きあげたトーストは、
市販の3,000円前後のトースターで焼いたトーストと、
ひとくち目の食感が明らかに違うのだそうです。

外はカリッと、中はフワッと。
水分や香ばしい小麦の香りがパンの中にしっかりと感じられて、
「安く売られていたパンとは思えない」
「パンが主役になっている」
と感じられる味なのだそうです。

そのように、美味しいパンが焼けるのは、
素晴らしい魅力です。

また、従来のトースターではありえないぐらい、
数秒ごとにヒーターの発熱を制御する設計も、
素晴らしい機能です。

でも、それらは「The Toaster」の
本質的な価値ではないと私は思っています。

では、「The Toaster」の本質的な価値とは、
何でしょうか?

私は、最高のトーストを口にして
「今日も一日、頑張るぞ」と元気が湧いてきたり、
仕事を終えて部屋でくつろぎながら「トースターおつまみ」を頂いて
「自分はいい時間を過ごせているなあ」と心地よくなる、
そのことが「The Toaster」の本質的な価値だと思っています。

人は五感を通して、形のない「体験」を求めています。
そのために、大切な時間やお金を使います。
感情が動けば動くほど、人はより多くの時間やお金を注ぎます。
なぜなら、人は幸せになりたいからです。

高度経済成長期に「三種の神器」が注目を集めたのも、
人々が戦争と貧困の悲惨な体験を超えて、
自分たちの将来に希望をつなぐ象徴として
見ていたからではないでしょうか。

その意味から、家電とは、他の商品やサービスと同じように、
人の五感に働きかけて、人を幸せにするための手段なのです。

トースターおつまみ

いま、「トースターおつまみ」が静かなブームを呼んでいます。

日本にトーストという食べ物が普及して以来、
何十年ものあいだ、
「トーストは朝、食べるもの」でした。

この見方をくつがえし、
家飲みのビールやワインの肴になるような、
美味しいトーストが焼ける・・・
というのが、「トースターおつまみ」人気上昇の秘訣のようです。

私も夜の遅い時間に帰宅した時など、ごくまれにですが、
トーストを焼いて頂くことがあります。

朝のトーストとはレシピを変えて、
食パンの上に海苔やハム、温野菜やチーズなど
好きな食材を散らしてトースターで焼き上げます。

あっという間にできる、
一風変わったお夜食の「おつまみトースト」。
香ばしい香りが鼻をくすぐって、
つかの間の夜の時間をゆったりと愉しく演出してくれます。

さて、この「トースターおつまみ」ヒットの立役者となっているのが、
とある日本製の高級トースターです。

バルミューダ 「The Toaster」 22,900円(税抜)
The Toaster

「最高の香りと食感を実現する感動のトースター」
というのが、この家電のキャッチフレーズです。

なぜ「感動のトースター」なのか。

従来のトースターで焼いたトーストと、食感が全く違うのだそうです。

というのも、回路制御を細やかに設定していて、
パン(料理)の種類に合わせて加熱方法に変化を加え、
パンの水分を封じ込めるからだそうです。

だから、外はカリッと、中はフワッと仕上がるというのです。

もちろん、パンが焦げることはありません。
また、パン屑がトレイからボロボロ…と落ちることもありません。

ですが・・・

この「The Toaster」のウリは、
「焦がさずに焼ける」「早く焼ける」とか、
「内部の掃除がラク」といったことではありません。
また、「おしゃれなデザイン」でもありません。

そうではなく、
「最高のトーストを食べる、豊かな時間」
という「体験」です。

さらには、
「家に帰るのが嬉しくなる」
という「感情」です。

だから、トースターという普及品の価格競争に巻き込まれないで、
大ヒットを持続しているのだと思います。

「革新的なトースターを開発する」となると難しそうですが、
「家に帰るのが楽しみになるようなものを提供する」
という目標の達成方法なら、無限にありそうです。

三種の神器

1950年に朝鮮半島で勃発した朝鮮戦争の特需を受け、
日本は戦後の混乱期から高度経済成長期へと
あゆみを進めました。

この時代、日本人が豊かさの象徴として
憧れた電化製品がありました。
電気冷蔵庫、電気洗濯機、白黒テレビ。
「三種の神器」と呼ばれました。

やがて、人々の暮らしがさらに豊かになると、
「三種の神器」は車 、エアコン、カラーテレビへと変わります。

21世紀の初めには、小泉元首相が施政方針演説の中で
「食器洗い乾燥機・薄型テレビ・カメラ付携帯電話は
新三種の神器」と命名しましたが、その時代も過ぎていきました。

今、国民の多くが同じ希望を重ねて、
一堂に注目し、憧れるような家電製品はなかなか見当たりません。

でも、ひょっとすると、今後、出てくるかもしれません。

古事記によると、「三種の神器」は
八咫鏡(やたのかがみ)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)
・草薙剣(くさなぎのたち)のことで、
瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が天孫降臨にあたり、
天照大御神から譲り受けた宝物と伝えられています。

それぞれの宝物にまつわる興味深いエピソードもありますが、
鏡、勾玉、剣の三点の宝物に共通しているのは、
「人の手によって磨かれたもの」ということです。

世の中に送り出された家電製品は、
私たちの仕事や暮らしを楽にし、
そしてワクワクさせてくれています。

でも、それに加えて「人の心を磨く」ような商品が出たら、
私は急いで売り場を見に行きたいと思うのです。

一見、閉塞感が漂う「ものづくりの世界」。

でも、実は希望にあふれる、伸び代ある世界だと私は信じています。